「私、この花、好きだなあ!・・・野ばら?」
「ふうん、どこかに咲いてるんじゃないの?」
「んー・・・棘あるからさ」


咲いてても採って来れないんだ・・・と哀しそうには言う。どこに咲いているのか、と聞けば学校の裏にある山に入ったところ!と元気な声が返ってきた。ちょうど見ているのは興味本位でが取り出してきた植物図鑑。勉強をしよう!といって無理矢理図書館に連れてこられたはいいものの、勉強なんて気は甚だないようだ。テスト、近いんじゃないの?と言いかけてやめる。折角上機嫌で図鑑を見ている彼女の邪魔をしたくは無い。(もし赤点とったら僕が教えればいいし)頬杖をついて本を見ながらため息をついている。


「何かあったの?話してみなよ」
「えー・・・たいしたことじゃないんだけどさ、」
「なに?」
「親が私を見るたび勉強しろ勉強しろ五月蠅いんだ・・・!」
「・・・・にとってはストレス以外のなにものでもないね」
「うん、なんていうか疲れる・・・恭弥と居るのが一番落ち着く」


隣に座っている僕の方にことん、と頭を乗せて「やっぱり好きだなあー」と呟いている。僕だって照れないわけじゃないのに。僕がそういうことすると「照れるからやめて」というのに、君は僕の照れることを平気でやってくる。まあ僕が反抗しないからだけど。唯一できる反抗として、「僕は愛してるけどね」といっておいた。
が勉強嫌いなのは良く知っている。相当追い込まれないとやらないくらい。やれば出来るのに。両親が結構色々言ってくるようでテスト前にはいつも落ち込んでいる。そのたびに「うちに恭弥が居ればいいのに」なんて冗談か本気かどうか分からないようなことをいう。僕だってずっと一緒に居たいけれどそういうわけにもいかない。何かあげられればいいのだが。と考えているとそうだ、と思いついた。


「今日はもう帰ろう」
「・・・・え、・・・うん」
「明日、朝一番にの家に行くから」
「でも、明日休みじゃない?」
「いいから。帰るよ」


不服そうなを引っ張って図書館をでる。ここからの家までは歩いて10分くらいなのですぐに着いた。名残惜しいのは2人とも同じで繋いでいた手はしばらく離れなかったけど、僕にはやらなければいけないことがあるのを思い出してゆっくりと手を離し、また明日といってが家に入るまで見守って帰った。しばらく歩いて目的地に着く。場所は学校の裏の山。入って行こうとすると、右に綺麗な花が咲いている。注意してみてみると、それは今日図鑑で見た花そのままだった。ああ、これか。折って採ろうとすると手に小さな痛みが走る。小さな花の精一杯の攻撃のようだ。



「ごめん、僕は彼女にこれをあげたいんだ」



と独り言だが呟いてみる。僕がためらうなんて珍しいこともあるな。自分で感心していたら、もしかしたら少しに似てるからかもしれないと思った。採るたび採るたび僕の手の痛みは大きくなってくる。30分くらい摘んでこれでいいか、と摘むのをやめ、帰る。
家に着いて、枯れては元も子もないので洗面所に水を溜めてそこに置いておいた。顔を洗うとき、歯を磨くときなどすこし邪魔だったけれど、見るたびにの喜んでいる顔が思い浮かんだので退かしはしなかった。朝一番、と言ったので早く寝ようとおもう。







おはよう、と昨日の花に挨拶をして家を出る。の家はすぐでインターホンを鳴らした。微かに階段を降りる音が聞こえたと思ったら急に扉が開いて笑顔のが出てきた。片手では持ちきれないので両手でもって前に差し出す。


「おはよう、これ、どうぞ」
「おはよう!・・・・え?これ昨日の・・・野ばら?」
「うん、昨日採ってきた」
「ありがとう・・・!でも、手、絆創膏だらけ」


申し訳なさそうに言う。折角喜ばせようと思って持ってきたのにそんな顔されちゃ意味が無い。両手いっぱいに野ばらを持ったを、野ばらごと抱きしめる。それでもまだ「手、大丈夫?」と聞いてくるので抱きしめたまま、


「大丈夫。のためならこれくらい、痛くも痒くもないよ」
「・・・・・そっか。ありがとう」
「うん」
「なんで採ってきてくれたの?確かに好きだって言ったけど・・・」
「いつでも僕が一緒に居るのはまだ出来ないでしょ?」
「・・・・うん」




「それがの家にあれば、少しは僕もも安心できると思って」




「・・・、本当にありがとう」




少し目に涙を溜めてが言った。抱きしめていた手を離して、向き合う。前髪を退かして額に口付け。
口を離して、見えたのは



両手に野ばらを持って嬉しそうに笑っている君。



(・・・手、本当に大丈夫?)(・・・少しだけ痛い)




恋とリナリア様に提出。