「あのね!今日はワンピース買いに駅前のお店に行きたいの!」
日曜日、バイクで家まで迎えに来てくれた雲雀さんに向かって言う。
「駅前……。そんな人がたくさん群れてるような場所に―」
「雲雀さんが嫌いなのは知ってるけど、今回は成績上がったご褒美に!
いいでしょう?」
私が小首を傾げて言うと雲雀さんはタメ息をつきつつバイクを目で指し、「乗りなよ」と言ってくれた。
雲雀さんは、何だかんだで私のお願いに弱い。
それに最初に成績上がったらお願い聞いてくれるって言ったのは、雲雀さんの方だからね。
私は雲雀さんの後ろに乗ると「しゅっぱーつ!!」と言った。
恥ずかしいから止めてと言われたけどね。
「雲雀さん、どっちがいいかなー」
「さぁ」
うわ。興味なさそう。
淡いピンクと爽やかな水色のワンピース二着を手に取って言う私に雲雀さんがそっぽ向きながら言った。
これは本当に機嫌が悪そうだ。
人の多さにイライラしてる。
さすがにいきなり誰かを攻撃したりはしないけどね。
だけど少し残念だ。
少しは、こう、恋人っぽく一緒にお洋服選んだりしてほしかったのにな。
そう思いながら手に持っていたワンピースを戻し、新しいのを探す。
「ねぇ、」
不意に、雲雀さんが声をかけた。
とうとう我慢の限界かと思い振り返る。
すると雲雀さんは棚の上の方へ目を向けて、
「あれ。いいんじゃない」
そう言ったのは真っ白な小さなリボンが胸元にあしらわれたワンピース。
ちょっと驚いた。
雲雀さん、ちゃんと選んでくれたんだ。
「これが似合うと思うよハニー」
「まぁありがとうダーリン」
「あはは」
「うふふ」
みたいな感じではないけど。(てゆうか、こんなの雲雀さんじゃない)
それでも探してくれてたのかな。
私に似合うと思ってくれたのかな。
そう思うとすごく嬉しかった。
「じゃあ、あれにする」
「そんなに簡単に決めていいの?」
「あれがいいの!」
雲雀さんが決めてくれたから。
そう言うと雲雀さんは興味なさげに向こうを向いちゃったけど。
気付いたよ。
ちょっと嬉しそうに笑ってくれたこと。
「雲雀さん雲雀さん!どうですか?」
「は本当に元気だね」
家に帰ってワンピースを着てみせる。
呆れたように言ってるけど、口調はすごく優しかった。
真っ白なワンピースなんて着たことないからテンションも上がるよ。
「えへへ。―あ」
「何?」
ある事に気がついて声を上げる。
雲雀さんが眉をひそめて問いかけた。
このワンピース……真っ白でまるで………。
私は訝しげにする雲雀さんを放って、今日持っていったバッグを手に取ると中をあさる。
取り出したのは薄いレースのハンカチ。
その両端をつまんで額にあてて、
「雲雀さん」
「何やってるの?」
「―花嫁さんです」
少し声音が小さくなりながらもそう言うと、雲雀さんはちょっと目を見開いた。
「真っ白で、ちっちゃくリボンが付いてて。
―何だか花嫁さんになった気分です」
そう言ってしばらくの無言。
や、やっぱり恥ずかしかったな、これは。
「ごめん!雲雀さん、忘れて―」
慌てて言いかけると、雲雀さんはハンカチをまるでヴェールのようにゆっくり手で上げて優しくキスを落としてきた。
「―いつかは」
雲雀さんがそっと口を開く。
その瞳から目を逸らせずジッと見つめた。
「いつかはワンピースじゃなくて本物着せてあげるよ」
その言葉に私の頬が朱に染まる。
「嬉しくないの?」
恥ずかしくて下を向いた私に、雲雀さんからからかうように言葉をかける。
分かってて言うから意地悪だ。
でも、いつか―。
いつか本当に純白のウエディングドレスを着る時は―。
やっぱり、あなたが隣に居てほしい。
そう思って顔を上げる。
小さく笑ってる雲雀さんと、もう一度静に唇を重ね合わせた。
ヴェールを上げてキスをする